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板谷バカ三代

板谷バカ三代 (角川文庫)

板谷バカ三代 (角川文庫)

前原政之さんのmm(ミリメートル)の紹介文を読んで興味を持ったのは数ヶ月前だった。しかしあの一発屋芸人が書いたエッセイがほんとうに面白いとは信じられなかった。ゲッツ板谷ダンディ坂野と勘違いしていたのである。本屋で著者近影をみたら、ごついオッサンだった。これで誤解が解けたが、まだ心配なので図書館で借りて読んだ。
これが、超面白いエッセイ集だった。疑って損をした。本当に前原さんのいうとおり、50回くらい笑った。寝る前に読むことはおすすめできない。睡眠時間が減るから。
著者のバカ家族が巻き起こす大事件・小事件が次から次へと紹介される。主人公は、著者の父親ケンちゃん。某自動車工場に勤めて定年までの42年間、無遅刻無欠勤を続け、有給さえ1日も使わなかったという超マジメな男。彼の欠点は、「他人に対してハンパじゃないお調子者」ということだ。家族に対しては寡黙なくせに、近所のバアさんの1人でも家に入ってくれば、「180度急変し、ラッパーのように喋りまくるのである。(中略)他人に対しての得体の知れないショーマンシップ、それはハンパじゃない」。
その血をひいた板谷氏のエッセイである。バカの血筋を強調するわりには、文章に知性を感じさせる。わたしは大槻ケンヂを思い出した。大槻をオタク─サブカルの代表とするなら、板谷ドキュンの代表だろう。しかし両者のエッセイは、けっこう似た印象をあたえる。
男はつらいよ」に似た下町人情喜劇ともいえる。ただし著者が「バカだねぇ、寅は」と言うオイちゃんの役を演じようとするのだが果たせず、登場人物がことごとく寅のようなバカを演じてシュールな混沌の様相を呈するところが現代的と言えば言える。唯一、著者の妹だけがまともで、被害者の役割を一身に引き受けているのが痛々しい。